原田マハさんの『アノニム』を読みました。
『アノニム』は、実在した画家ジャクソン・ポロックの幻の作品を狙う窃盗団の話です。
アート・エンタテインメント小説となっていて、マハさんの作品の中では珍しい、エンタメ要素がたっぷりの明るくて楽しい小説です。
『アノニム』の内容と合わせて、ジャクソン・ポロックについても紹介したいと思います。
原田マハ『アノニム』の内容
ジャクソン・ポロック幻の傑作「ナンバー・ゼロ」のオークション開催が迫る香港。 建築家である真矢美里は七人の仲間とともにオークション会場へ潜入していた。
一方、アーティストを夢見る高校生・張英才に<アノニム>と名乗る謎の窃盗団からメッセージが届く。「本物のポロック、見てみたくないか?」という言葉に誘われ、 英才はある取引に応じるが……!? 痛快華麗なアート・エンタテインメント開幕!!
引用:『アノニム』原田マハ 特設サイトHPより
舞台は香港。
そこで行われるオークションに、ジャクソン・ポロックの幻の作品「ナンバー・ゼロ」が出品されることになっていました。
アノニムの意味は?
タイトルにもなっている「アノニム」は、小説の中では窃盗集団の名前になっています。
盗難にあった美術作品を修復し、持ち主に返す活動をしています。
また、アノニムとは、unknown (作者不詳)の意味を指しています。
『アノニム』原田マハ 特設サイトHPより
アノニムの8人
写真:『アノニム』の人物紹介のページ
アノニムは8人の窃盗集団ですが、本名と仮の名前があっちょっとわかりにくかったです。
特設サイトや本のはじめのページに、イラスト付きで紹介されているので、確認しながら読む方がいいかもしれません。
誰が誰だか、わからなくなる。
そのアノニムが狙うのは、ジャクソン・ポロックの幻の傑作「ナンバー・ゼロ」。
香港のオークション会場から奪う手段は・・・・。
アーティスト志望の高校生・張英才(チョンインチョイ)のもとに、ある依頼をすることになります。
どうやって「ナンバー・ゼロ」を奪うのか。
ジャクソン・ポロックってどんなアーティスト?
「ナンバー・ゼロ」ってどんな絵?
『アノニム』では、ジャクソン・ポロックについての説明はあまりないので、手法や作品についても少し紹介します。
ジャクソン・ポロックの手法
1912年生まれ。第二次世界大戦直後、NYを中心に活躍したアーティスト。カンヴァスを床に置き、絵の具を垂らす(ドリッピング)手法で抽象絵画を制作。アクションペインティングとも呼ばれ、美術史に一時代を築く。
引用:『アノニム』原田マハ 特設サイトHPより
ポロックは、カンヴァスを床に寝かせて絵の具を垂らした最初のアーティストでした。
それまでポロックは「自分だけの表現」にこだわるのですが、いつもピカソに先を越されていたようです。
しかし、ついに自分だけの表現を見つけます。
それは「アクションペインティング」と言われる手法です。
ピカソも思いつかなかったこの手法で、美術界に革新を起こしました。
しかし、ポロックは精神を病み、アルコール依存症になり、1956年の44歳の時に自動車事故で命を落としてしまいます。
原田マハさんは、著書である『いちまいの絵』でこう語られています。
カンヴァスを覆い尽くす絵の具が織りなす綾は、ポロックの苦悩の軌跡である。それは尽きせぬ苦しみの靄(もや)のようにも見える。そして、新しい視点を獲得した画家の歓喜のまなざしそのもののようにも。
――そうと知った瞬間に、私たちの目にも新たなアートの地平が見えてくるはずだ。
引用:『いちまいの絵』
ポロックの苦悩がわかる映画
監督も務めたエド・ハリスが、ポロック役を演じた映画『ポロック 2人だけのアトリエ』があります。
私も数年前ですが、ケーブルテレビで放送されていたので見ました。
私がポロックという画家を知ったのも、この映画でした。
アメリカモダン・アート界のスター、実在の天才画家ジャクソン・ポロックと彼を支えたリー・クラズナー。二人のあまりにも切ないラブ・ストーリー。
内容・・・暗いです。
が、ポロックがどんな画家だったか、また苦悩を抱えた経緯などがわかります。
「ナンバー・ゼロ」って本当にあるの?
ポロックは1947年から、「アクション・ペインティング」を本格的に展開しはじめました。
ポロックの作品のナンバーシリーズには、「ナンバー1,1949」「ナンバー1,1959 ラベンダー・ミスト」など、いくつかの作品があります。
しかし、「ナンバー・ゼロ」は、小説『アノニム』の中だけの作品で実際にはありません。
オークションで高額取り引きされた作品
ポロックのナンバーシリーズの作品で、実際に高額で取り引きされた作品があります。
1948年に制作された「Number17A」で、ポロックのドリッピングシリーズのなかでも初期の作品です。
2016年に個人間取り引きで、美術コレクターであるケネス・グリフィンが約2億ドルで購入されました。
写真:No. 17A Jackson Pollock
また、「ナンバー5,1948」も、2006年に美術品オークションハウスであるサザビーズが仲介して、1億4000万ドルで取り引きされています。
「ナンバーシリーズ」が観れる美術館
ポロックの作品を、日本で鑑賞できる美術館はいくつかありますが、ナンバーシリーズを展示されている美術館は限られています。
- 国立西洋美術館(東京)
- アーティゾン美術館(東京)
- セゾン現代美術館(長野)
話を原田マハさんの小説『アノニム』に戻します。
『アノニム』を読んだ感想
私が今まで読んできた原田マハさんのアート小説とは、ストーリー全体の流れや描き方(作風)が違いました。
エンタメで楽しく読めました。
テーマとされているジャクソン・ポロックの「ナンバー・ゼロ」をめぐるストーリーですが、ナンバーシリーズも現代アートとして紹介されています。
ポロック自身の歴史や背景などはほとんど描かれていません。
ポロックの「アートで世界を変えてやる」という思いと、実際に1枚の絵でアートの世界に革命を起こした、ポロックに魅せられる人たちを描いています。
私が印象に残った文を紹介します。
アートには世界を変える力はないかもしれない。けれど、ひょっとすると、アートで世界を変えられるかもしれないと思うことが大切なんだ。
ピカソも、ポロックもその思いを胸に描いた。その思いが、カンヴァスを通して、世界中の人々に届いたんだ。だからこそ、
この先の言葉は、実際に読んでみて欲しいと思います。
『アノニム』は楽しく、明るい小説でした。
興味を持たれたら、読んでみてくださいね。
最後に
『アノニム』を紹介しました。
今もなお、世界の人々に影響を与え続ける数々の作品の偉大さを感じますね。
原田マハさんのアート小説は、いつもそんな思いを抱きます。
できるだけたくさんの美術作品を見たいと、あらためて思いました。
原田マハさんのアート小説に出てくる画家や作品を書き出した記事もあります。
よかったら参考にしてください。